第16話  大 人    平成15年8月4日 


土屋鴎涯は、著書の中でこう云っている。「金のある奴は皆乗り物で釣りに行く。自動車、自転車を夜中の狭い道を遠慮会釈無しに走り回り、通行人を妨害しているのは実にけしからん事だ。」

又こうも云っている。「釣の前日に自動車、自転車などで餌を買いに行くから、日曜日に買いに云っても餌は売っていない。」と・・・。
鶴岡から加茂磯、由良磯まで徒歩で歩いていた時代である。徒歩に比べれば、自転車は楽で早い。自動車はもっと早い。釣り人は何とか金を工面して自転車を買った。もっとお金を持っている人は自動車を買った。

大正期から昭和にかけて、庶民に釣が普及して来た事がこう云った原因作ったのである。鶴岡では黒鯛釣の餌と云えばエビとマエであり、特にエビは撒餌にも使える餌であった。その餌がなければ釣が出来ない。以前、庄内特に鶴岡では商談でも話が途切れると釣の話をすれば良かった。10人が居れば7〜8人は確実に釣の愛好家である。そんな土地柄であったのである。

餌の供給が需要に追いついて行けなくなって来たのである。だから我先に餌を求めて買いに行くようになる。歩くより自転車、自転車より自動車と文明の力を使うようになる。文明の利器を使うようになると竿も延べ竿から携帯性のある継竿へと変化した。

やがて延竿派と継竿派が出てくる。お互いに長所、短所を云い合う。結論は出ない。各々長所、短所があり、どちらが良いとは云えないが、車を使うようになると携帯に便利な継竿を選んでしまうのが人の常である。しかし、竿師の方は今だに、延竿しか庄内竿とは云わない。加工しない庄内竿の究極の形が、延竿にのみ出て来るあるからである。